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MEAシステムで万能細胞の活動を記録する
 

 

MEAシステムがiPS細胞の創薬研究/再生医療研究を加速する

ここ数年、ヒトES細胞(hESC)から分化した心筋を創薬スクリーニングの分野に応用する方法論が盛んに議論されています(Hescheler et al., 2002; Caspi & Gepstein, 2004; Harding et al., 2007)。しかしながら、ヒトES細胞の使用は倫理面から法による強い制限を受けています。一昨年、京都大学の山中伸弥教授のグループがiPS細胞と呼ばれるヒトの皮膚の細胞から万能性を持つ細胞の作成に成功したことは周知のトピックです。iPS細胞はヒトES細胞のような倫理的な制限がなく、それでいてあらゆるヒトの器官に分化するポテンシャルを持っています。特に、iPS細胞から分化したニューロンおよび心筋細胞は創薬および安全性薬理学の分野に比較的早く応用が可能であろうと期待されています。ここでは、創薬研究、安全性薬理学研究、および基礎研究の分野ですでになされているヒトES細胞由来の心筋(hESC-CM)およびニューロン(hESC-N)の研究例を紹介します。

MEAシステムは万能細胞の電気生理学的な研究用ツールとして広く使われています。このシステムはhESC-CM(Hecheler & Fleischmann, 2001)およびhESC-N(Illes et al., 2007)のフィールド電位を記録することが可能です。MEAシステムの利点は、使いやすさ、および多点記録・多点刺激が可能であるという点にあります。MEAディッシュ上で長期間細胞を培養することが可能です。培養中に滅菌条件を維持したまま細胞の電気生理学的な活動をモニタリングできます。MEAの電極は細胞外からフィールド電位を記録し、このフィールド電位からクラシカルな細胞内活動電位のパラメータを抽出することができます(図1)。



図1-A MEAディッシュ上のヒトES細胞由来心筋(スウェーデン、Cellartis社Gothenburg氏提供)。分化したhESC-CMをMEAディッシュに載せます。図中の黒い点はチタンナイトライド製の電極で、直径30μmです。細胞は自発的に収縮しています。
図1-B hESC-CMの自発収縮による典型的なフィールド電位。

MEAシステムでhESC-CMの急性/長期の化合物試験が行えます。心臓の安全性薬理学では心室再分極の阻害が主要な問題であり、hESC-CMをこの評価系に使うことが製薬産業から強く望まれています。心電図のQT値延長の最も重要なメカニズムはIKr電流(hERGチャネル)の阻害です。ヒト心筋のイオンチャネルの複合的な応答をMEAシステムで記録できます。化合物試験の典型的なデータを図2に示します(Meyer et al., 2007)。



図2 hESC-CMのバリデーションデータ。A: MEA上で培養したhESC-CMの自発拍動フィールド電位のアベレージング波形。黒線はコントロール、青線は100μMのE-4031で延長したフィールド電位、赤線は10μMのイソプロテレノールで短縮したフィールド電位(シンガポール、ES International社 W Sun氏提供)。B: MEA上で拍動するhESC-CM(スウェーデン、Cellartis社K Akesson氏提供)。C: E-4031とイソプロテレノールのドーズレスポンスカーブ。化合物濃度に対し、ノーマライズしたフィールド電位をプロット(スウェーデン、Cellartis社P Sartipy氏提供)。D: βアゴニストであるイソプロテレノールの影響(シンガポール、ES International社 W Sun氏提供)。

ハイスループットスクリーニング用システムとして6ウェルタイプ(QT-Lite)および96ウェルタイプ(QT96QT-Screen)があります。これらはオートメーションデータ記録・解析ソフトウェアが付属します。QT-Screenにはオートメションリキッドハンドリング機能が備わっています。



図3 ハイスループットシステム。A: リキッドハンドリング機能付きのQT-Screenシステム。B: QTウェルプレート。C: ウェルの拡大。参照電極と記録電極を内蔵。D: アステミゾールによるT波延長のオーバーレイプロット。E: QT-Lite、各ウェルに電極9個内蔵。

iPS細胞の再生医療への応用は言うまでもなく万能細胞研究のゴールの1つです。MEAディッシュ上で万能細胞と初代培養心筋細胞を共培養することで、万能細胞と心筋の機能的な統合を観察することができます。移植細胞と生体組織の電気的な統合を研究するためのin-vitroの理想的なモデルとなります。図4の写真は初代培養心筋の上下の培養エリアの間をヒト間葉系幹細胞で橋渡しし、活動電位の伝播を観察しています(Beeres et al., 2005)。



図4 A: ヒト成人間葉系幹細胞とラット初代培養心筋の共培養(オランダ、Leiden大学のD.A.Pijnappels氏提供)。上下はラット心筋、中心がヒト間葉系幹細胞。B: MEAシステムのレコーディング画面。ペースメーカー様エリアの特定や、活動電位伝播の場所による遅延から伝播速度の測定が可能。心筋エリアと幹細胞エリアでは波形が異なりますが、活動電位が確実に伝播していることが確認できます。


(引用文献)

Caspi O & Gepstein L. (2004). Potential applications of human embryonic stem cell-derived cardiomyocytes. Ann N Y Acad Sci 1015, 285-298.

Harding SE, Ali NN, Brito-Martins M & Gorelik J. (2007). The human embryonic stem cell-derived cardiomyocyte as a pharmacological model. Pharmacology & therapeutics 113, 341-353.

Hescheler J & Fleischmann BK. (2001). Indispensable tools: embryonic stem cells yield insights into the human heart. J Clin Invest 108, 363-364.

Hescheler J, Wartenberg M, Fleischmann BK, Banach K, Acker H & Sauer H. (2002). Embryonic stem cells as a model for the physiological analysis of the cardiovascular system. Methods Mol Biol 185, 169-187.

Illes S, Fleischer W, Siebler M, Hartung HP & Dihne M. (2007). Development and pharmacological modulation of embryonic stem cell-derived neuronal network activity. Exp Neurol.

Meyer T, Sartipy P, Blind F, Leisgen C & Guenther E. (2007). New cell models and assays in cardiac safety profiling. Expert Opinion on Drug Metabolism & Toxicology 3, 507-517.

Beeres, S.L.M.A., et al., Human Adult Bone Marrow Mesenchymal Stem Cells Repair Experimental Conduction Block in Rat Cardiomyocyte Cultures. Journal of the Amarican College of Cardiology, 2005: p.10.

Takahashi K, Tanabe K, Ohnuki M, Narita M, Ichisaka T, Tomoda K & Yamanaka S. (2007). Induction of Pluripotent Stem Cells from Adult Human Fibroblasts by Defined Factors. Cell.

Yu J, Vodyanik MA, Smuga-Otto K, Antosiewicz-Bourget J, Frane JL, Tian S, Nie J, Jonsdottir GA, Ruotti V, Stewart R, Slukvin, II & Thomson JA. (2007). Induced Pluripotent Stem Cell Lines Derived from Human Somatic Cells. Science.
 
 


pdf万能細胞由来心筋の文献リスト(27KB)

pdf万能細胞由来ニューロンの文献リスト(36KB)